日々利用者さんのサポートにあたる支援員の皆様、お疲れ様です。福祉現場では、利用者さんの大切な個人情報を多く取り扱います。また、事業所には様々な人が出入りするため、思いがけないセキュリティリスクが潜んでいます。この記事では、支援員として特に注意すべき3つの物理的セキュリティリスクと、その対策について具体的に解説します。
福祉現場に潜むセキュリティリスクとは?
福祉事業所は地域に開かれた場所であることも多く、人の出入りが比較的自由な場合があります。支援員の皆様は、利用者さんの支援計画、日々の記録、連絡先、健康情報など、非常に機密性の高い個人情報を日常的に扱っています。
日々の業務が忙しいと、つい「少しだけなら」と油断が生,まれがちですが、その一瞬の隙が重大な情報漏洩や事故につながる危険性があります。利用者さんの安全とプライバシーを守るため、まずはどのようなリスクがあるかを知ることが重要です。
【リスク1】共有スペースでの重要資料の放置

支援員が最も陥りやすいリスクの一つが、重要資料の「置き忘れ」や「放置」です。例えば、会議室での打ち合わせ後、支援記録が挟まったファイルをそのままにしてしまったり、食堂や休憩室で作業したPCをロックせずに席を立ってしまったりすることです。
これらの共有スペースは、他のスタッフだけでなく、訪問者や場合によっては不特定多数の人が目にする可能性がある場所です。ほんの数分の間でも、悪意のある人物にとっては十分な時間となり得ます。
資料放置が引き起こす重大な結果
もし放置された資料が利用者さんの個人情報であった場合、その漏洩は事業所の信用を根底から揺るがす事態に発展します。
利用者さん本人やご家族に多大な不安と迷惑をかけるだけでなく、プライバシーの侵害として法的責任を問われる可能性もゼロではありません。
一度失った信頼を回復するのは容易ではなく、事業所全体の運営にも関わる重大な問題となることを、私たちは常に認識しておく必要があります。
すぐにできる対策:クリアデスクの徹底
対策の基本は「クリアデスク」の徹底、つまり机の上に重要書類を放置しないことです。当たり前のことですが、これを習慣化することが最も効果的です。
- 「ちょっとだけ」の油断をなくす
短時間でも席を離れる際は、個人情報を含む書類は必ず施錠できるキャビネットや引き出しに収納します。これがセキュリティの第一歩です。 - 共有スペース利用ルール策定
会議室や食堂に重要資料を持ち込む際のルールを明確にします。例えば「会議終了後は必ず全資料を持ち帰る」「持ち出し管理簿でチェックする」などです。 - 離席時の相互チェック
支援員同士で、離席時に机の上に資料が放置されていないか声を掛け合う体制を作ります。チーム全体で意識を高め、お互いに注意し合う文化が大切です。
~クリアデスクとは、仕事や業務の終了時に自分のデスク上を整理整頓し、必要な書類やツール以外の物を取り除き、清潔で整然とした状態に保つことを指します。具体的には、使わない書類やメモ、不要な文具類、飲み物のカップなどを片付け、デスクの表面をきれいにし、必要なアイテムのみを整理・配置することです。クリアデスクを心がけることは、作業効率が上がることだけでなく、情報セキュリティインシデントを回避することにもつながるのです。~
【リスク2】管理が甘い「訪問者フリーパス」状態
事業所の出入り口管理が甘く、訪問者が誰のチェックも受けずに自由に出入りできる状態は非常に危険です。いわゆる「訪問者フリーパス」状態は、不審者の侵入を容易にします。
A型事業所は利用者さんが出勤する「職場」であり、彼らが安心して働ける環境を守る責務が支援員にはあります。
面接希望者、見学者、取引先など、多くの来訪があるからこそ、管理体制の構築が不可欠です。誰でも簡単に入室できる環境は、それ自体が大きなリスクとなります。
なぜ訪問者管理が重要なのか
訪問者管理の最大の目的は、利用者さんとスタッフの安全確保です。不審者の侵入は、物品の盗難や情報の盗み見だけでなく、最悪の場合、利用者さんやスタッフに危害が及ぶ可能性も否定できません。
また、見知らぬ人物が事業所内を自由に歩き回っている環境は、特に精神的な障がいを持つ利用者さんにとって、大きな不安やストレスの原因となり得ます。安心できる環境を提供することも、支援員の重要な役割の一つです。
訪問者管理の強化策
厳格すぎると閉鎖的になる懸念もありますが、最低限のルールは必要です。バランスを取りながら、安全な環境を構築しましょう。
- 受付体制の確立と記帳
訪問者は必ず受付(事務所の窓口など)を経由し、用件と身元を確認します。訪問者記録簿への記帳を徹底し、いつ誰が来たかを記録します。 - 名札(ゲストパス)の着用
訪問者には一目でわかる名札やゲストパスの着用を義務付けます。これにより、スタッフと訪問者を明確に区別でき、不審者が紛れ込みにくくなります。 - 「声かけ」ルールの徹底
名札を着用していない見慣れない人物がいたら、近くの支援員が「ご用件をお伺いします」と積極的に声をかけるルールを徹底します。これが最大の抑止力です。
【リスク3】見落とされた「防犯カメラの死角」

「うちは防犯カメラがあるから安心」と思っている事業所も注意が必要です。カメラを設置していても、その設置場所や角度によっては必ず「死角」が生まれます。悪意を持つ者は、その死角を意図的に狙ってきます。
物品の盗難、例えばスタッフの財布やPC、あるいは重要書類が保管されているキャビネットが、カメラの映らない範囲に置かれていないか、今一度確認が必要です。カメラの存在が逆に油断を生み、死角エリアへの注意が散漫になる危険性もあります。
死角が狙われる理由
死角は、人目やカメラの監視が届かない場所です。そのため、不審者にとっては好都合な犯行スペースとなります。
数分間、あるいは数秒間でも監視の目から逃れられれば、ロッカーから貴重品を盗んだり、机の上の書類を盗み見たり、スマートフォンで撮影したりすることが可能になります。
設置しただけで満足せず、カメラがどこを監視しているかを正確に把握し、死角を認識することがリスク管理の第一歩です。
死角をなくすための点検と対策
死角を完全になくすことは難しいかもしれませんが、リスクを低減させる努力は可能です。物理的な対策と運用面での対策を組み合わせましょう。
- 定期的な画角チェックと死角マップ作成
カメラの映像を定期的に確認し、どこが映っていないか「死角マップ」を作成してスタッフ間で共有します。必要に応じて角度調整やミラーの設置を検討します。 - 重要物保管場所の見直し
個人情報や貴重品を保管するキャビネット、PCサーバー、現金などを管理する金庫が、防犯カメラの死角に入っていないか確認します。死角にある場合は移動させます。 - 警告表示と巡回
「防犯カメラ作動中」のステッカーを目立つ位置に貼り、心理的な抑制効果を狙います。また、スタッフが定期的に死角になりやすいエリアを巡回することも有効です。
デジタルデータの取り扱いと基本的な心構え
ここまで物理的なリスクを中心に見てきましたが、デジタルデータの管理も同様に重要です。支援記録や連絡先リストは、紙だけでなくPCやスマートフォン、タブレット端末にも大量に保存されています。
これらのデバイス管理は、紙の資料管理と表裏一体です。例えば、業務用のスマートフォンを机に放置したまま離席したり、推測しやすいパスワードを設定したりすることは、鍵のかかっていない金庫を放置するのと同じくらい危険な行為です。
パソコン・スマートフォンの管理徹底
デジタルデバイスの管理は、今や支援員の必須スキルです。基本的なルールを守るだけで、リスクは大幅に減少します。
離席時は必ずパスワードロックをかける(スクリーンセーバーの時間を短く設定する)、覗き見防止フィルターを画面に貼る、個人所有のUSBメモリを安易に業務PCに接続しない、など、事業所としての明確なルール策定と、支援員一人ひとりの遵守が求められます。
特に個人情報を含むファイルのパスワード管理は徹底しましょう。
セキュリティ意識は「人」が最後のリスク
どのような高度なシステムや厳格なルールを導入しても、最終的にそれを運用するのは「人」です。セキュリティ対策において、最大の穴は「人の油断」や「面倒くささ」から生まれます。
「自分だけは大丈夫」「このくらいなら」という小さな意識の緩みが、重大な事故を引き起こします。日々の業務の中で、お互いにセキュリティに関する声かけを積極的に行い、事業所全体で高い意識を維持し続けることが、利用者さんを守る最も確実な方法です。
まとめ

福祉現場では、資料の放置や訪問者管理の甘さ、防犯カメラの死角など、日常の中に多くのセキュリティリスクが潜んでいます。
支援員は利用者の個人情報を守る立場として、クリアデスクの徹底や出入り管理、カメラの点検など、基本的な対策を日常的に実践することが重要です。
最も大切なのは「人の意識」であり、小さな油断が大きな事故を生まないよう、チーム全体でセキュリティ意識を高める姿勢が求められます。
あとがき
この記事を書きながら、福祉現場で働く支援員の皆さんがどれほど多くの情報と人を守る責任を担っているかを改めて実感しました。
日々の忙しさの中で、資料の一時的な放置や出入り管理の緩みなど、ほんの小さな油断が大きなトラブルにつながることがあると理解しました。
利用者さんに安心して働いてもらうためには、まず支援員自身が安全意識を高く持ち続けることが大切だと強く感じました。


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