福祉や障がいに関わる企業では、利用者の大切な個人情報を日常的に扱います。そのため、情報漏洩を防ぐための強固なセキュリティ対策が不可欠です。特に、システムの入り口となるパスワードの管理は、その第一歩と言えるでしょう。しかし、どのように管理すれば安全なのか、悩んでいる担当者の方も多いのではないでしょうか。この記事では、福祉・障がい分野の企業が実践すべき、具体的で効果的なパスワード管理術について、分かりやすく解説していきます。
なぜ福祉・障がいに関わる企業でパスワード管理が重要なのか
福祉や障がい者支援の現場では、利用者や家族の氏名・住所・連絡先に加え、病歴や障がいの種類、家庭環境などの個人情報を日常的に扱います。
これらの情報が万一外部に漏洩すると、本人や家族に深刻な不利益や心理的ダメージを与えかねません。差別や偏見、悪用といった重大なリスクが想定されるため、情報を守る最初の砦となるパスワード管理が特に重要となります。
仮に情報漏洩が発生した場合、企業は利用者や家族からの信頼を完全に失い、その回復は非常に困難です。加えて、行政指導や監査、損害賠償など法的責任を問われ、企業の存続が危ぶまれる可能性もあります。
したがって、パスワード管理は単なる事務作業ではなく重要なリスクマネジメントの一部として捉え、日々の業務で高いセキュリティ意識を持つことが必須です。
また、福祉・障がい分野の現場にはITに不慣れな職員も多く在籍します。複雑な管理方法だけを押し付けると形骸化する恐れがあるため、誰でも分かりやすく実践しやすいルール作りと組織全体の継続的な意識向上が不可欠です。
職員研修等を活用し、全員が自分ごととしてセキュリティに取り組む土壌づくりが大切です。
基本的なパスワード設定のルールと徹底

安全なパスワード管理の第一歩は、推測や突破が困難な強力なパスワードの設定です。組織全体でパスワードのルールを明文化し、全職員に徹底させることが不可欠です。
なぜこのルールが必要なのか背景やリスクも丁寧に説明することで、職員の協力を得やすくなります。ルールの徹底だけでセキュリティレベルが大きく向上します。
強力なパスワードは、長さ・複雑さ・推測困難な構成の3要素で構成されます。職員全員が、これから示す基本ポイントを守ってパスワードを設定するよう指導を徹底しましょう。
ルールは文書化し、職場で常に確認できるようにしておくのも有効です。新入職員研修にも必ず取り入れましょう。
安全なパスワードの作り方
- 長さ
12文字以上を推奨し、16文字以上ならより安全。長いパスワードは総当たり攻撃にも強い - 複雑さ
英大文字・英小文字・数字・記号をすべて組み合わせ、多様な文字で突破されにくくする - 推測困難な構成
名前・誕生日・会社名など安易な文字列や連番は避け、意味のない組み合わせや長文型パスワードを使う
これらの基本を守るだけで、大きくセキュリティを向上させることができます。
職員間でのパスワード共有のリスクと対策
業務効率化のためにIDやパスワードを複数人で共有するケースがありますが、これは非常に危険な行為です。パスワードの共有は漏洩リスクを高め、万一の問題発生時に責任の所在を曖昧にします。不正操作や内部不正の温床にもなりかねません。
具体的なリスクとしては、退職者がそのままアクセスできる、1人が被害にあうと全員が影響を受ける、などがあります。安易な共有はリスクを拡大させる危険行為です。
役割ベースのアクセス制御(RBAC)の導入
パスワード共有を防ぐ効果的な方法が、「役割ベースのアクセス制御(RBAC)」です。各職員の職務や役職ごとに必要な情報だけにアクセス権を与え、それ以外は制限します。
例えば、相談支援員は担当利用者の情報だけ、事務職は請求業務システムだけ、というように権限を細かく設定します。
RBACの導入で、不要な情報へのアクセスを防ぎ、アカウント情報の漏洩時のリスクも最小限にできます。全職員に個別アカウントを発行し、誰がいつどの情報にアクセスしたかを記録できる点も重要です。
システム改修が必要な場合もありますが、得られる効果は非常に大きいでしょう。
共有アカウントを避けるための具体的な方法
- 個人用アカウントの発行
原則として全員に個人用アカウントを発行し、共有アカウントは極力廃止する - 共有アカウントの管理
必要な場合は責任者を明確にし、管理とパスワード変更を徹底する - 利用制限とルール化
利用職員や目的を限定し、ルールを文書化して厳格に運用する
パスワード管理ツールの活用と選び方

複数のシステムで異なる強力なパスワードを使うのは現実的に非常に困難です。結果として付箋やメモでの管理や使い回しといった危険な行動に繋がります。
これらを解決するには「パスワード管理ツール」の活用が有効です。ID・パスワードを暗号化して安全に一元管理でき、職員の負担も軽減されます。
ツール最大のメリットは強力なパスワード自動生成です。英数記号を含んだ複雑な文字列を自動で作成し、職員はマスターパスワードだけを覚えればOKです。
パスワードの使い回しも防げ、必要に応じてチーム内共有や操作ログ確認機能など、組織的な管理もできます。
福祉・障がい分野の企業に適したツール選定ポイント
- 操作性
ITに不慣れな職員でも簡単に使える直感的なインターフェースのツールを選ぶ - セキュリティ
強力な暗号化(AES-256等)や第三者機関監査の有無を必ず確認する - 法人対応
管理者による一元管理やアクセス権限設定、操作ログ監査が可能な法人向けプランが望ましい
導入の際は職員研修も併せて実施し、使い方や意義を丁寧に伝えることが重要です。
多要素認証(MFA)の導入でセキュリティを強化
パスワードだけの認証では、もはや安全とは言えません。パスワード漏洩時に備え、多要素認証(MFA)の導入が強く推奨されます。
MFAはID・パスワードに加えて別の認証要素を組み合わせる仕組みで、万が一パスワードが盗まれても、不正アクセスを防ぐことができます。
認証要素は「知識情報(パスワード)」「所持情報(スマホやセキュリティキー)」「生体情報(指紋・顔認証)」の3つに分かれます。異なる種類を2つ以上組み合わせて本人確認することで、高度なセキュリティを実現できます。
具体的な多要素認証の方法
- ワンタイムパスワード
SMSや認証アプリによる方式は導入しやすい定番の手法 - セキュリティキー
USBトークンなど物理キーが必要でフィッシング詐欺にも強い - 生体認証
スマホやPCの指紋認証・顔認証で手間を省きつつ安全性を高め、デバイス環境に応じて活用を検討する
最初は職員が手間に感じることもありますが、利用者の大切な情報を守るためには必要不可欠な対策です。導入理由と重要性を丁寧に説明し、組織全体で取り組みましょう。
職員へのセキュリティ教育と意識向上策
優れたシステムやツールを導入しても、使う職員の意識が低ければ情報漏洩リスクは残ります。最大のセキュリティホールは人と言われるほどです。
だからこそ継続的なセキュリティ教育と意識向上のための取り組みが、パスワード管理術の最後の砦となります。
セキュリティ教育の目的はルールを覚えさせるだけでなく、なぜ必要なのか、どんな危険があるのか理解させ、自発的に安全な行動を促すことです。
特に福祉・障がい分野では、扱う情報の個人情報や職業倫理の観点からも重要性を訴えることが効果的です。自分たちの行動が利用者の生活や尊厳に直結している自覚を持つことが不可欠です。
インシデント発生時の報告体制の構築
- 迅速な報告体制
パスワード漏洩や不審メール開封時にすぐ報告できる体制を構築する - 報告フローの周知
情報セキュリティの相談・報告窓口やインシデント発生時の報告手順をマニュアル化し全員に周知する - 報告を評価する文化
「報告は悪いことではない」という組織文化を育て、報告者を評価する風土を管理者が示す
早期報告があれば初動対応も迅速に行え、組織全体のリスク低減につながります。報告しやすい風通しの良い職場環境づくりも大切です。
まとめ

福祉・障がい分野では、利用者の大切な個人情報を守るため、強固なパスワード管理が不可欠です。強力なパスワードや多要素認証、パスワード管理ツールを活用し、共有や使い回しを避けましょう。
職員全員へのセキュリティ教育や万一の際の迅速な報告体制も重要です。組織全体で高い意識を持ち、安心できる環境づくりを目指しましょう。
あとがき
この記事を書きながら、福祉・障がい分野における情報管理の重さを改めて実感しました。日々の業務の中で個人情報を扱う責任はとても大きく、パスワード管理の徹底やセキュリティ教育の重要性を痛感しています。
技術の進歩とともに新たなリスクも生まれるため、現場の皆さんが無理なく実践できる対策を積み重ね、安心して働ける環境づくりに少しでも役立てれば幸いです。
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