就労継続支援A型事業所で働く方々にとって、「106万円の壁」は大きな関心事の一つではないでしょうか。この収入の壁は2026年に施行される年金制度改正により撤廃する事が決まっています。今後は、働く時間や事業所の規模に関わらず、社会保険の加入対象が大きく広がる見込みです。本記事では、制度変更によって生活や手取り額にどのような影響が考えられるのかを、分かりやすく解説します。
106万円の壁の仕組みとA型事業所の現状
現在、短時間労働者が社会保険に加入するかどうかの目安となっているのが「106万円の壁」です。これは月額賃金が8.8万円以上(年収換算で約106万円)になると、厚生年金や健康保険への加入義務が生じるルールを指します。
A型事業所は利用者と雇用契約を結ぶため、一定の条件を満たすとこのルールが適用されます。現時点での社会保険加入条件は、主に5つの項目で構成されています。
週の労働時間が20時間以上であること、月額賃金が8.8万円以上であること、2か月を超える雇用の見込みがあること、学生ではないこと、そして従業員数が51人以上の事業所であることです。
これらの条件をすべて満たした場合、社会保険料が給与から天引きされます。多くのA型事業所では、1日4時間・週5日といった勤務形態が一般的であり、週20時間のラインに該当する方が非常に多いのが現状です。
そのため、月額賃金が8.8万円を超えるかどうかが、手取り額を左右する大きな境界線となっていました。しかし、この仕組みは2026年を境に大きく変わろうとしています。現行の施行前のルールは、以下のとおりになっています。
- 週の所定労働時間が20時間以上であることが基本の基準となります。
- 月額賃金が8.8万円(年収106万円)以上が、現在の加入ラインです。
- 従業員51人以上の規模の事業所が現在の主な対象となっています。
これまでは、あえて働く時間を抑えて収入を106万円未満に調整する「就業調整」を行う方も少なくありませんでした。社会保険に加入すると将来の年金額が増える一方で、目先の手取り額が減少するため、生活設計における大きな悩みどころとなっていたのです。
2026年10月の改正で何が変わる?賃金要件の撤廃
2026年10月を目安に実施される制度改正において、最も大きな変更点は賃金要件の撤廃です。これまで社会保険加入のハードルとなっていた「月額8.8万円(年収106万円)以上」という収入の制限がなくなります。
これにより、収入の多寡に関わらず「働く時間」が主な判断基準となります。この改正後は、週20時間以上働いている人であれば、たとえ月収が5万円であっても8万円であっても、社会保険への加入が義務付けられる見込みです。
A型事業所で週20時間以上の契約を結んでいる方の多くは、本人の希望に関わらず厚生年金や健康保険に加入することになります。これは、短時間労働者のセーフティネットを強化するための施策です。
賃金要件がなくなることで、これまで「あと数千円で106万円を超えてしまう」と心配していたストレスからは解放されます。しかし、収入が低い段階で保険料が引かれることになるため、手取り額の減少をどう補うかが新たな課題となります。
政府はこれに対し、手取りを減らさないための補助金などの支援策も継続して検討しています。
- 2026年10月から、収入に関係なく週20時間以上で社会保険の対象になります。
- 「106万円」という金額を気にして働く時間を調整する必要がなくなります。
- 少額の給与からも保険料が引かれるため、事前の資金計画が必要になります。
この変更は、障がいのある方の安定した生活を支える年金制度改正に基づくものです。より多くの人が公的年金の保障を受けられるようになり、将来の老後リスクや障がい年金以外の給付を補う狙いがあることでしょう。
事業所規模のルール変更:51人未満も対象に
改正の柱の一つは、対象となる事業所規模の段階的拡大です。これまで主に従業員51人以上の事業所が対象でしたが、2026年の改正以降は、51人未満の小規模事業所にも社会保険の加入義務が広がる予定です。
小規模なA型事業所で働く方も、今後は対象となる可能性が高まります。事業所の規模に関わらず、全ての短時間労働者に公平な保障を提供することが改革の目的であり、働く場所による不公平感の解消が期待されています。
事業所側の負担は増えますが、働く側にとってはどこで働いても一定の保障が得られる安心感につながります。2026年秋の施行に向け、自分が対象となるかをスタッフに確認しておくと安心です。
制度改正により、社会保険の適用が進むことで、利用者一人ひとりの社会的自立を支える基盤はより強固になります。事業所と連携し、移行に備えることが大切です。
社会保険加入のメリットとデメリットを整理
社会保険に加入することは、単に「手取りが減る」というマイナス面だけではありません。中長期的には非常に大きなメリットがあります。
例えば、将来受け取る老齢厚生年金の額が増えるほか、万が一の際の障害厚生年金の加算や、病気や怪我で働けなくなった時の傷病手当金などの保障が受けられます。
一方で、最大の懸念点はやはり給与の手取り額が減少することでしょう。社会保険料は労働者と事業主で半分ずつ負担(労使折半)しますが、本人の負担分は給与の約15%程度になることが一般的です。
A型事業所での収入が生活の柱である場合、この減少分が家計に与える影響を正しく見積もっておく必要があります。以下の表で、現状と2026年10月以降の変更点を比較しました。自分の働き方がどちらに当てはまるか確認してみてください。
| 項目 | 現行ルール | 2026年10月以降 |
|---|---|---|
| 賃金要件 | 月8.8万円以上 | 撤廃(収入問わず) |
| 労働時間要件 | 週20時間以上 | 週20時間以上(維持) |
| 企業規模要件 | 従業員51人以上 | 51人未満も順次対象 |
社会保険に加入することで、会社員と同じ保障が得られることは、社会的な信頼にも繋がります。健康保険証も市区町村の国民健康保険から、事業所の健康保険組合のものに変わります。
特に長期的に働くことを目指している方にとっては、将来の安心を買うための投資と捉えることもできるでしょう。
- メリット:将来の年金受給額が増え、医療保障の範囲も広がります。
- メリット:事業主が保険料を半分負担してくれるため、実質的な保障額は高いです。
- デメリット:給与からの天引き額が増え、毎月の手取りが減少します。
今後の働き方をどう考える?A型利用者の備え
2026年の制度改正に向けて、A型事業所の利用者の皆様ができる備えはいくつかあります。まずは自分の現在の契約時間を改めて確認しましょう。もし現在週20時間ちょうどで働いている場合、改正後は自動的に社会保険加入の対象となります。
手取り額の変化を知るために、スタッフにシミュレーションを依頼するのも良いでしょう。もし手取りを減らしたくないという理由で、週の労働時間を20時間未満に変更しようとする場合は注意が必要です。
A型事業所は就労訓練の場でもあるため、時間を減らすことが自身のステップアップに逆行しないか、慎重に判断しなければなりません。むしろ、保険料負担を上回るほど時給アップや昇給を目指す前向きな姿勢も重要です。
また、市区町村から支給される「自立支援医療」や「障害者手帳」による各種減免制度などは、社会保険に加入しても引き続き利用できるものがほとんどです。
しかし、国民健康保険から社会保険に切り替わる際に必要な手続きが発生するため、役所の窓口や事業所の担当者と連携し、スムーズな移行を心がけることが大切です。
- 現在の週あたりの労働時間契約が20時間以上かを確認しましょう。
- 手取り減少分を補うための家計の見直しや、キャリアアップを検討してください。
- 事業所のサビ管や相談支援専門員に、制度移行後の生活への影響を相談しましょう。
~106万の壁の撤廃によって、年収が少ない人でも社会保険に加入対象となり、年金や健康保険の保障が手厚くなります。保険料負担による手取り減少を懸念する声もありますが、政府は助成金などの施策を実施しており、勤務先によっては手取りが維持される場合もあります。~
2026年は大きな転換期となりますが、これは「働き損」をなくし、誰もが安心して働ける社会を作るためのステップです。収入の壁を気にせず、自分の体調や希望に合わせて働けるようになるという前向きな側面を捉えていきましょう。
新しいルールに戸惑うこともあるかもしれませんが、正しい情報を集めて早めに準備を始めれば、決して怖いものではありません。
まとめ
2026年10月に予定されている「106万円の壁」の撤廃は、A型事業所で働く皆様の生活に大きな変化をもたらします。賃金要件がなくなることで、週20時間以上働く多くの利用者が社会保険の加入対象となります。
目先の手取りは減少しますが、将来の年金や医療保障が手厚くなるという大きな利点もあります。制度を正しく理解し、事業所と相談しながら、自分に最適な働き方を見つけていきましょう。
あとがき
制度の大きな転換期は不安がつきものですが、今回の改正は働く障がい者の権利を守り、将来の安心を底上げするための大切な一歩です。「壁」という言葉がなくなることで、より自由に、自分らしく働ける環境が整うことを期待しています。
まずはご自身の契約内容を優しく見つめ直し、事業所のスタッフと一緒に、新しい一歩を踏み出す準備を始めてみませんか。皆様のひたむきな挑戦を、心から応援しています。


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