日々の業務で利用者さんの大切な個人情報を扱う私たちは、情報セキュリティに対する高い意識が求められます。最近は支援記録のデジタル化やリモート会議が普及し、便利になった反面、思わぬ「落とし穴」も増えています。この記事では、支援員が特に注意すべき3つのセキュリティリスクと、すぐに実践できる具体的な対策を分かりやすく解説します。
福祉現場で増加するセキュリティの落とし穴
近年、多くのA型就労支援事業所や福祉施設で、業務効率化のためにパソコンやタブレットの導入が進んでいます。利用者さんの支援記録、面談内容、連絡先、健康情報などです。
私たちは非常に重要な個人情報を日常的に扱っています。これらの情報がもし外部に漏れてしまったら、利用者さんやご家族に多大なご迷惑をおかけするだけでなく、事業所全体の信用を一瞬で失うことになります。
「自分は大丈夫」と思っていても、日々の忙しさの中での「うっかりミス」が、深刻な情報漏えい事故につながる危険性をはらんでいます。福祉の現場だからこそ、支援員一人ひとりが「情報を守る」という強い意識を持つことが、今、何よりも重要なのです。
特にデジタル機器の扱いに慣れていない場合、基本的なセキュリティ対策が見落とされがちです。
【リスク1】画面ロック未設定の共有端末

事業所内で複数の職員が共有して使うパソコンやタブレット、これらに画面ロックが設定されていなかったり、設定が甘かったりするケースは、非常に危険な状態です。
例えば、支援記録を入力したままの端末を、ロックせずに席を離れたとします。その間に、他の利用者さんや、たまたま来所した外部の人が画面を見てしまうかもしれません。
そこには、他の利用者さんの個人名、工賃の計算、あるいは障がいに関するデリケートな情報が表示されている可能性があります。ほんの数分、席を外しただけでも、情報漏えいのリスクは発生します。
「すぐに戻るから大丈夫」「知っている人しかいないから」という小さな油断が、取り返しのつかない事態を引き起こす第一歩となるのです。
共有端末の具体的な対策と設定
画面ロック未設定のリスクは、少しの意識と簡単な設定で大幅に減らすことができます。利用者さんの情報を守るため、今すぐ事業所内の共有端末の設定を見直しましょう。最低限、以下の3つの対策は必須です。
必ずパスワード・PINを設定
すべての共有端末に、必ずパスワードやPINコード(暗証番号)を設定します。「1234」や「0000」、事業所の電話番号、開設日など、推測されやすい番号は絶対に避けてください。
できるだけ複雑なものを設定し、管理者が責任を持って管理しましょう。
自動ロック機能の活用
「離席時は手動でロック」というルールはもちろん大切です。しかし、人間は忘れるものです。一定時間(推奨は1分~3分程度)操作がない場合に、自動で画面ロックがかかる設定をOS(WindowsやiOSなど)側で強制的に有効化しましょう。
職員間でのルール徹底
端末のパスワードは、権限のない人には教えない、付箋に書いて貼っておかない、など基本的なルールを定めます。
そして「離席時は必ず手動ロック(Windowsなら Windowsキー + L )」を全職員が習慣づけるよう、定期的に注意喚起し、確認しあう文化を作ることが重要です。
【リスク2】リモート会議での情報漏えい

コロナ禍以降、ZoomやTeamsを利用したリモート会議は、福祉現場でも一気に普及しました。関係機関とのサービス担当者会議、利用者さんとのオンライン面談、あるいは職員研修などです。
場所を選ばずコミュニケーションが取れるため非常に便利です。しかし、このリモート会議にも情報漏えいのリスクが潜んでいます。
最も多いのが「画面共有」時のミスです。会議相手に見せるつもりの資料ではなく、誤って別の利用者さんの個人情報がびっしり書かれた支援計画書や、事業所内の機密情報が含まれるファイル一覧を共有してしまう事故です。
また、自宅から会議に参加する際、部屋の背景に注意が必要です。壁に貼ったカレンダーに来客予定が書かれていたり、机の上に個人情報が書かれた書類が置きっぱなしだったりすると、それが意図せず相手に映り込んでしまいます。
【リスク3】職員の私物端末がウイルス感染源に
事業所から貸与された端末だけでなく、職員が個人的に所有しているスマートフォンやパソコン(私物端末)が、重大なセキュリティリスクの原因となることがあります。
特にA型事業所などでは、コスト削減や利便性から、個人のスマホで業務連絡を行ったり、私物のノートPCを業務に利用したりする(BYOD)ケースもあるかもしれません。
~個人が私物として所有しているPCやスマートフォンを業務に使う利用形態のこと。BYODにより、従業員が私物として所有するPCやスマートフォンなどのデバイスを業務に使うことで、従業員にとっては日頃から使い慣れたデバイスで業務ができるメリットがあります。さらに、企業側にはそれらのデバイスを購入する費用を削減できるといったメリットが生じます。~
もし、その私物端末がセキュリティ対策ソフトを入れておらず、ウイルスに感染していたらどうなるでしょうか。
その端末を事業所のWi-Fiネットワークに接続したり、充電のために事業所のPCにUSBで接続したりした瞬間、ウイルスが事業所内のネットワーク全体に一気に拡散する恐れがあります。
最悪の場合、利用者さんの情報を管理するサーバーがウイルスに感染し、全データが暗号化されて使えなくなったり、外部に情報が盗み出されたりする可能性があります。
私物端末からの感染を防ぐルール作り
私物端末の利用(BYOD)は、厳格な管理が難しく、高いリスクを伴います。事業所として、情報漏えいやウイルス感染を防ぐための明確なルールを定め、全職員に徹底させることが不可欠です。
私物端末に頼らない業務体制の構築が理想ですが、まずは以下の対策から始めましょう。
私物端末の接続禁止を原則とする
最も安全な対策は、許可なく私物のスマートフォン、PC、USBメモリなどを事業所の業務用ネットワーク(Wi-Fi含む)や業務用PCに接続することを原則禁止にすることです。
業務に必要な機器は、すべて事業所側がセキュリティ対策を施した上で貸与するのが基本です。
業務端末のセキュリティを万全にする
事業所が貸与するすべてのPCやタブレットには、必ず最新のセキュリティ対策ソフト(アンチウイルスソフト)を導入します。そして、OSやソフトウェアのアップデート(更新)を常に最新の状態に保つよう、自動更新設定を有効にしておくことが重要です。
セキュリティ研修と意識向上
「不審なメールに添付されたファイルは開かない」「フリーWi-Fiで業務データを扱わない」といった基本的なITリテラシーを、全職員が身につける必要があります。
私物端末の危険性も含め、セキュリティに関する定期的な研修や情報共有を行い、支援員全体の意識を高めていく取り組みが求められます。
まとめ

福祉現場では、画面ロック未設定やリモート会議での情報漏えい、私物端末によるウイルス感染など、日常業務の中に多くのセキュリティリスクが潜んでいます。
支援員は利用者さんの個人情報を守るために、端末のロック設定や共有ルールの徹底、リモート会議時の環境確認、私物端末の接続禁止など、基本的な対策を確実に実行することが大切です。日々の小さな意識が大きな事故を防ぎ、信頼を守る鍵となります。
あとがき
この記事を書きながら、福祉現場におけるセキュリティ意識の重要性を改めて感じました。特にA型事業所のように複数の職員や利用者さんが同じ環境を共有する場では、少しの油断が大きな情報漏えいにつながります。
便利なツールやデバイスが増えた今だからこそ、基本に立ち返り、画面ロックやリモート会議時の注意、私物端末の扱いなどを徹底することが大切です。支援員一人ひとりの小さな行動が、利用者さんの安心と信頼を守る礎になると強く感じました。


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