病気の診断を受けた時、それが「難病」や「指定難病」と聞くと、多くの不安を感じるかもしれません。特に、この二つの言葉の違いや、診断後にどのような公的支援が受けられるのか、知るべき情報は多岐にわたるでしょう。重要なのは、難病と診断されても、適切な情報を得て、支援制度を賢く活用することが、長期的な療養生活の安定につながります。本記事では、難病と指定難病の違いから、医療費助成の申請手続き、そして相談窓口に至るまでを分かりやすく解説します。
指定難病とは?難病との違いを明確に理解する
「難病」と「指定難病」という言葉を聞いた時、同じ意味だと考えてしまうかもしれません。しかし、日本の法律や支援制度の上では、この二つは明確に区別されています。
まず「難病」は、発病の機構が明らかでなく、治療方法が確立しておらず、長期の療養を必要とする希少な病気を指す広い概念です。がんや精神疾患のように、すでに個別の施策体系がある病気は原則として含まれません。
そして、「指定難病」とは、この難病のうち、国が定めた特定の要件を満たし、医療費助成の対象として国が指定した疾病のことを言います。
この指定を受けることで、患者さんは特定医療費(指定難病)助成制度を利用できるようになるのです。
指定されるための要件と医療費助成の対象
難病が「指定難病」となるためには、主に二つの要件を満たす必要があると言われています。
一つは、患者数が日本国内で人口の0.1パーセント程度に達しないという「希少性」の要件です。もう一つは、客観的な診断基準またはそれに準ずるものが確立しているという要件です。
これらの要件を満たした病気が、厚生労働大臣によって「指定難病」としてリストアップされます。このリストは順次見直しが行われることがあります。
- 難病の定義: 発病の機構不明、治療法未確立、希少な疾病であり、長期療養が必要な病気を指します。
- 指定難病の要件: 患者数が人口の0.1%未満で、客観的な診断基準が確立されています。
- 助成の対象: 指定難病と診断され、重症度分類が一定以上か、病状が軽度でも医療費が高額になる場合に助成の対象となります。
指定難病の医療費助成を受けるためには、ただ指定難病であるというだけでなく、重症度分類に照らして病状の程度が一定程度以上であること、または、病状は軽くても直近1年間に一定額以上の医療費を支払っている「軽症高額」に該当することが必要です。
難病という診断は大きな不安を伴いますが、指定難病として認定されれば、公的な支援を受けられる道が開かれます。まずはご自身の病気が指定難病に該当するかどうかを確認することが、支援への第一歩になるでしょう。
診断後の第一歩 情報を集め冷静に対応する手順

難病の診断を受けた直後は、これからどうなるのだろうかと、大きな戸惑いや精神的な負担を感じることが多いかもしれません。大切なのは、まず正確な情報を集め、冷静に次のステップに進むことです。
最初にするべきことは、病気の正確な理解です。主治医から病名や病状、今後の治療方針、そしてそれが「指定難病」に該当するかどうかについて、十分な説明を受けましょう。
疑問点は遠慮せずに医師に質問し、可能であれば、診察内容をメモしたり、家族と一緒に説明を聞いたりすることが大切です。病気について知ることは、療養生活を自らデザインしていく上での基盤になります。
次に、公的な支援制度の存在を知ることです。指定難病の場合、特定医療費助成制度の申請を視野に入れることになります。
医療費の負担軽減 特定医療費(指定難病)助成制度
指定難病と診断された方にとって、最も大きな不安の一つが長期にわたる医療費の負担ではないでしょうか。この不安を軽減してくれるのが、特定医療費(指定難病)助成制度です。
この制度を利用できると、指定難病の治療にかかる医療費や、訪問看護ステーションの利用料について、自己負担割合が軽減されます。
原則として、自己負担割合は2割となりますが、世帯の所得状況や病状の程度に応じて、ひと月あたりの自己負担額に上限が設定されます。
この上限額を超えた分は公費で負担されるため、特に高額な治療が続く方や、入院や手術が必要になった際の経済的な安心につながります。
1医療費助成の対象となる方
指定難病は、個々の疾病ごとに確立された対象疾病の診断基準とそれぞれの疾病の特性に応じた重症度分類が設定されています。
指定難病と診断され、次に該当した場合は「難病法」による医療費助成を受けることができます。
(1)重症度分類に照らして病状の程度が一定程度以上
(2)軽症高額該当
重症度分類を満たさないものの、月ごとの医療費総額が33,330円を超える月が年間3月以上ある場合
申請に必要な書類と助成開始時期のルール
助成を受けるためには、お住まいの自治体(都道府県・指定都市)を管轄する保健所などに申請を行う必要があります。
必要書類は自治体によって異なる場合があるため、事前に保健所窓口への確認が大切です。
- 制度のメリット: 医療費の自己負担割合が軽減され、月々の自己負担額に上限が設定されます。
- 申請先: お住まいの住所地を管轄する保健所がメインの窓口です。
- 助成開始日: 原則として、保健所が申請書を受理した日にさかのぼって助成が適用されます。
医療費助成の開始時期については、原則として申請書を保健所が受理した日からとなります。しかし、2023年10月以降、重症度分類を満たしたと診断された日までさかのぼって助成が受けられるようになりました。
ただし、さかのぼり期間には原則として申請日から1か月以内という期限があるため、速やかに申請を行うことが重要です。
審査を経て「特定医療費受給者証」が交付されるまでには数ヶ月はかかるでしょう。受給者証が届くまでの間に支払った医療費は、後日、払い戻しを受けることができるため、領収書を大切に保管しておきましょう。
経済的な安心を 医療費以外の公的支援と福祉サービス

指定難病の支援は医療費助成だけにとどまりません。長期の療養生活では、治療費以外にも生活面での支援や経済的なサポートが必要になることがあるでしょう。
障害年金や就労継続支援(A型)などの活用
難病の症状によって一定の障害状態にあると認められた場合、障害年金の支給を受けられる可能性があります。これは、病気や怪我によって生活や仕事に支障が出た場合に、現役世代も含めて受け取れる年金制度です。
また、体調に合わせて働きたいと考える方のために、就労継続支援A型(A型事業所)などの就労支援サービスも利用できます。A型事業所は、雇用契約を結び、比較的安定した環境で働くことをサポートする福祉サービスです。
さらに、難病の治療とは別に、リハビリテーションや精神科の通院が必要になる場合、自立支援医療(更生医療・精神通院医療)の制度を利用できることがあります。これは、特定の医療費の自己負担額をさらに軽減する制度です。
- 福祉サービスの利用: 難病の一部は障害者総合支援法の対象となり、居宅介護や短期入所などの福祉サービスを利用できます。
- 就労支援: 雇用契約を結んで働ける就労継続支援A型など、体調に合わせた働き方をサポートするサービスがあります。
- 経済的支援: 症状により生活や仕事に支障がある場合、障害年金の支給を受けることができる可能性があります。
これらの制度はそれぞれ異なる申請窓口や認定基準を持っています。どの制度がご自身に適用されるのか、またどのような手続きが必要かを知るためには、後述する難病相談・支援センターへの問い合わせが非常に有効です。
医療費の助成とこれらの生活支援を組み合わせることで、難病とともに生きる生活の経済的・精神的な負担を大きく軽減できるかもしれません。
ひとりで抱え込まないで 難病患者のための相談・支援窓口
難病と向き合うことは、患者さんご本人だけでなく、ご家族にとっても大きな試練となることがあります。身体的な負担に加えて、心理的な不安や社会生活上の問題など、さまざまな悩みを抱えることも少なくありません。
大切なのは、そうした悩みをひとりで抱え込まないことです。国や自治体では、難病の患者さんやご家族を支援するために、さまざまな相談・支援窓口を設けています。
主な窓口には、各都道府県に設置されている難病相談・支援センターや、お住まいの地域を管轄する保健所、市区町村の福祉課などがあります。また、同じ病気を持つ人同士が交流できる患者会や医療・福祉の専門家による相談窓口も活用できます。
これらの窓口では、医療費助成の手続きに関する質問だけでなく、療養生活全般の相談、社会福祉制度の案内、患者会の情報提供など、幅広い支援を行っています。
どこに相談すればよいか迷ったときは、まずはお近くの保健所や難病相談・支援センターに連絡してみてください。適切なサポートを受けることで、より安心して療養生活を送ることができるはずです。
まとめ

「指定難病」は難病の定義とは異なり、国が定めた要件を満たし、医療費助成の対象となる病気です。診断後は難病指定医による臨床調査個人票を作成し、速やかに保健所へ申請することが大切です。
あとがき
私自身も指定難病を経験し、最初の頃は色を失ったような焦りを感じていました。難病は診断までに時間がかかることも多く、見た目では分かりにくい分、理解してもらうのが難しい病気だと感じます。私の場合、診断がつくまでに八ヶ月ほどかかりました。
それでも今は、さまざまな支援制度のおかげで、A型就労支援を活用しながら前向きに生活を続けています。この記事を通して、難病について知ってもらったり、実際に難病と向き合うときに使える制度を知るきっかけになればうれしいです。


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