昭和・平成・令和|世代を超えて共に働くA型就労支援の新しいカタチ

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昭和、平成、令和と、それぞれ異なる時代を生きてきた人々。当然、仕事に対する価値観や、心の悩みへの向き合い方も違います。その違いを理解することは、福祉の現場を知るだけでなく、大切な視点も与えてくれます。この記事では、各世代の仕事観を丁寧に紐解きながら、A型事業所という場所でお互いをどう尊重し、成長の力に変えているのかを見ていきましょう。

【世代別】働くことへの、それぞれの「当たり前」

人が「働く」ときに何を大切にするかは、生きてきた時代に大きく影響されます。社会全体の雰囲気や常識が、一人ひとりの働き方の土台を作っているのです。ここでは、昭和・平成・令和という三つの世代が持つ仕事への価値観を比べてみましょう。

昭和世代 : 「会社と共に」安定を大切にする働き方

日本経済が成長した時代に社会人だった私たち昭和世代は、「会社のために」という気持ちが強い傾向にありました。一度会社に入れば定年まで勤め上げることが自然でした。

そのため、会社への貢献を第一に考え、時にはプライベートより仕事を優先することもありました。組織の一員としての意識が高く、先輩や上司との関係を大切にするなど、チーム全体の和を重んじるのが特徴です。

平成世代 : 「自分らしく」バランスを求める働き方

平成は、昭和のような安定が約束されなくなった時代です。私達はバブル崩壊後の「就職氷河期」も経験しました。そのため、一つの会社にすべてを預けるのではなく、自分自身のスキルアップに関心を持つ人が増えました。

「仕事と生活の調和」を意味する「ワークライフバランス」という考え方が広まったのもこの時代です。そんな価値観から、より良い環境や自己実現を求めて転職を選ぶことに、抵抗が少なくなりました。

令和世代(Z世代) : 「意味」や「共感」でつながる働き方

インターネットやSNSが当たり前の環境で育ったZ世代は、多様な価値観に触れる中で「自分らしさ」を何よりも大切にします。仕事は、単にお金を稼ぐ手段ではありません。自分の人生を豊かにする手段の一つです。

その仕事が社会の役に立っているか、自分の成長につながるか、そして理念に「共感」できるかといった点を重視する傾向があります。無駄をなくし、ITツールなどを活用して効率的に働くことを好むのが特徴です。

心の健康との向き合い方、時代と共に変わる社会の目

「メンタルヘルス」という言葉が身近になったように、心の健康に対する社会の考え方も時代と共に大きく変わりました。この変化を知ることは、A型事業所で働く様々な世代の気持ちの背景を理解する上で、とても大切なことです。

昭和の時代:「気の持ちよう」とされていた、心の話

私達の昭和の時代、心の不調は「気持ちの弱さ」や「根性の問題」と受け止められがちでした。心に辛さを抱えていても、それを誰かに打ち明けるのは難しく、一人で抱え込んでしまうことが多かったです。

社会全体にも精神疾患への偏見があり、その話題に触れること自体がためらわれる雰囲気でした。そのため、適切なサポートにつながらず、辛い思いをしていた人も少なくありませんでした。

平成の時代:「ストレス社会」と、心の病への理解の広がり

平成になると、「ストレス社会」という言葉が浸透し、心の健康が社会的な課題として認識され始めます。特に「うつ病」などが広く知られるようになり、心の病は誰にでも起こりうるものだ、という考え方が少しずつ広まっていきました。

企業でもメンタルヘルス対策の重要性が語られるようになりましたが、まだ個人の問題と捉える見方も根強く、新しい価値観への移り変わりの時代だったと言えるでしょう。

令和の時代:オープンに語り合える「メンタルヘルス」へ

私たちが生きている令和の今、心の健康を大切にすることは、体の健康と同じくらい当たり前のこととして捉えられるようになりました。特に若い世代を中心に、SNSなどを通じて自分の経験をオープンにする人も増えました。

こうした動きは、同じ悩みを抱える人々にとって大きな支えとなっています。一人で悩むのではなく、専門機関に相談したり、仲間とつながったりすることが、より身近な選択肢になっているのです。

A型就労支援が持つ、多様性を受け入れる「環境」の力

これほど価値観の違う世代が、なぜA型事業所では共に働き、成長していけるのでしょうか。その理由は、この場所が持つ独自の環境と、そこに根付く文化にあります。

「一般就労」という、みんなで目指す一つのゴール

A型事業所で働く人たちの経歴や事情は様々です。しかし、そこには「スキルを身につけ、いずれは一般の会社で働く」という共通の目標があります。同じゴールを目指す仲間だという意識が、世代の壁を越えたつながりを生むきっかけになっているのでしょう。

「お互い様」が育む、支え合いの文化

私が働いている事業所では、ピアサポートという支援制度があります。ピアサポーターは自身の経験をもとに利用者をサポートします。ピアサポーターは当事者でもあり支援者でもあるので、利用者と職員の橋渡し的な役割を担っています。

利用者同士でも仕事で落ち込んでいる人がいれば声をかけたり、体調が優れない人がいれば周りが業務をフォローします。この「お互い様」の精神が、誰もが安心して仕事ができる雰囲気を作っています。

一人ひとりのペースを大切にする、柔軟な働き方

A型事業所の大きな特徴は、利用者一人ひとりの特性や体調に合わせた働き方ができる点です。個々の事情に合わせた柔軟な働き方が認められています。無理なく続けられる環境があるからこそ、多様な人々が集えるのです。

世代間の違いを力に変える「リスペクト」の心

価値観の違う人々と働くために最も大切なのは、お互いを「尊重」する姿勢です。自分の「当たり前」が相手の「当たり前」ではないと知り、敬意を払うことが大切です。それが、自分の学びの機会となります。

自分の「当たり前」を押し付けない、対話の大切さ

仕事の進め方一つをとっても、世代間の考えは異なります。重要なのは、どちらが正しいかを決めることではありません。「相手はなぜそう考えるのだろう?」と、その背景にある価値観を考えることです。

一方的な意見の押し付けではなく、対話を通してお互いの着地点を探ることが求められます。

互いの経験から学び合う姿勢

それぞれの世代には、相手が持っていない強みがあります。昭和世代には、長年の経験で培われた「丁寧なビジネスマナー」や「経験」があります。

令和世代は、パソコンや便利なアプリを使いこなすデジタルスキルを持っています。お互いを先生として、自然と学び合う関係が生まれるのです。

間をつなぐ「橋渡し役」としての平成世代

昭和と令和、両方の世代の価値観を理解できる「平成世代」は、コミュニケーションの円滑な「橋渡し役」を担うことがあります。

ベテランの意見を若者に分かりやすく伝えたり、若者の新しいアイデアの良さをベテランに紹介したり。そんな存在が、チームの風通しを良くしてくれるのです。

世代が混ざり合うことで生まれる、A型就労支援の新たな可能性

異なる世代がお互いを尊重し、協力し合うことで、A型事業所には新たな可能性が生まれます。単に業務がスムーズに進むだけでなく、利用者一人ひとりの成長や、事業所全体の未来につながる素晴らしい力です。

業務の効率化と、働きやすさの両立

ベテランの経験に基づく確実な仕事の進め方と、若者のITスキルを活かした効率化のアイデアがあります。この二つが組み合わさることで、事業所全体の生産性が向上するでしょう。

作業時間が短縮されれば、新しい業務に挑戦する余裕も生まれます。効率化は、働きやすさの向上にも直結するのです。

新しい価値観に触れる、個人の成長機会

自分とは違う考え方や経験に触れることは、自分が無意識に持っていた「思い込み」に気づくきっかけになります。「こうあるべきだ」という固定観念から自由になり、より柔軟な働き方や新しい目標を見つけることにつながる可能性があります。

多様な人々との出会いは、一人ひとりの視野を広げる貴重な機会となるのです。

これからの共生社会の、一つのモデルとして

少子高齢化が進むこれからの日本では、年齢や障害の有無にかかわらず、多様な人々が共に働く社会づくりが求められます。様々な背景を持つ人々が支え合って働くA型就労支援事業所は、社会の「一つのモデル」と言えるかもしれません。

まとめ

A型就労支援事業所では、昭和の「組織への忠誠心」、平成の「ワークライフバランス」、令和の「自分らしい貢献」といった、異なる仕事観を持つ世代が共に働いています。

精神疾患への社会の認識が変化してきたように、それぞれの世代が抱える背景も様々です。互いの違いを尊重することで、ベテランの経験と若者のスキルが融合し支え合うことでお互いに成長し、未来への希望を育んでいます。

あとがき

私が働いている事業所には、昭和から令和まで、世代別にそれぞれの価値観をもって働いています。それぞれの価値観を持つ「異文化交流」のようなものを感じます。互いを理解しようとする時、新しい発見と成長が生まれてくるように思います。

障害や病気という困難を抱えながらも、世代を超えて共通の目標に向かうことは、これからの未来が目指すべき姿に感じられます。この記事が、福祉に関心のある方々にとって多様性を受け入れ、共に生きる社会を考えるきっかけとなりますように。

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