障がいを超える親子愛!『アイ・アム・サム』親権を巡る感動の物語

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知的障害のある父親サムと、彼から引き離されそうになる娘ルーシーの親権を巡る葛藤を描いた2001年の名作『アイ・アム・サム』。ショーン・ペン、ミッシェル・ファイファー、ダコタ・ファニングの共演が織りなす感動は、公開から時を経ても多くの人の心を打ち続けています。映画を彩るビートルズのカバー曲や、随所に散りばめられたオマージュも魅力です。本記事では、この作品の感動の背景と、テーマが現代社会に投げかけるメッセージを深掘りします。

映画『アイ・アム・サム』のあらすじと主要な登場人物

映画の物語はサムがコーヒーショップで働くシーンから始まります。そのサムに店長が「サム、病院に行く時間だ」と告げる。サムが走って行く先は病院の分娩室です。

サムとルーシー:愛あふれる日々の始まり

病院で生まれたばかりの赤ん坊を恐る恐る抱き、サムは「君の名前はルーシー。ルーシー・ダイヤモンド・ドーソンだよ」と語りかけます。

しかし、赤ん坊の母親であるレベッカは、生まれたばかりの娘を抱こうとはしませんでした。

その直後、バスに乗ろうとしたレベッカは、サムと赤ん坊を残して雑踏の中に姿を消してしまいます。この出来事によって、サムの生活は一変することになったのです。

生まれたばかりのルーシーを抱きながら店で懸命に働くサムを、店長やスタッフ、店の客もが温かい目で見守ります。

サムの住むアパートの隣人であるアニーも、彼の心強いサポーターとなります。彼女は音大を首席で卒業したピアノ教師ですが、外出恐怖症で長年部屋から出ずに暮らしていました。

しかし、そのアニーがサムの子育てに援助の手を差し伸べ、昼間はルーシーを預かることで、サムを安心して仕事に行かせることができたのです。

サムにはまた、同じような知的障害を持つ大切な仲間がいます。彼らとの間には、毎週木曜日にビデオを持ち寄って見る会があったり、水曜日はファミリーレストランでいつも決まって同じメニューで朝食をとることなど、たくさんの約束事があります。

これらを忠実に守ることで、彼らは心の安定を維持し、友情を深めているのかもしれません。

サムがルーシーを喜ばせたい一心で計画した7歳の誕生パーティの時に事件が起きます。

ちょっとした弾みで、よその子を押してしまったサムは、通報され児童福祉局職員の判断で、ルーシーは施設に預けられてしまいます。

毎日愛し合っていた父と娘の幸せな暮らしは、サムに悪意がなかったにもかかわらず、当時の社会が持つ福祉や親権に関する基準、あるいは一般的な「常識」によって、引き裂かれてしまうことになったのと言えるでしょう。

知的障害をもつ父親サムが直面する社会の壁

知的障害を持つ人たちの暮らしには、この映画が表しているように、それぞれその人なりの同じ行動パターンを取る人も多くみられる傾向があります。このことから変化に不安を感じる人もいると考えられます。

この社会が知的障害を持つ人たちばかりだとすれば、このような決まり事を作らなくても、気持ちよく楽に暮らしていけるのかもしれません。しかし、現実の社会では彼らはマイノリティ(少数派)となっています。

サムの行動を支える「決まり事」と安心感

サムと彼の仲間たちが持つたくさんの約束事は、彼らが毎日を安心して送るための土台となっている可能性が考えられます。

例えば、決まった曜日に決まった場所で決まった活動を行うという行為は、予測可能な日常を作り出します。これは、社会の中で受けるかもしれない予期せぬ変化や奇異の目から身を守るための、重要な手段となっているのではないでしょうか。

これらの決まり事を忠実に守ることが、心の安定を維持し、彼らの間の確固たる友情を続けるための基盤となっているのでしょう。

マイノリティとして生きる上での「身を守る術」

彼らは、いつも他人からは、自分の言動に対して、奇異な目を向けられたり、驚かれたり、嫌悪されたりする状況に遭遇することも少なくありません。

そのような恐怖の中で毎日を生きていかなければならないとしたら、どうやって自分を守るのでしょうか。なるべく目立たず変化を避けることで安心感を得ようとするのは、ごく自然な自己防衛と言えます。

サムの娘ルーシーが抱く「普通」と「罪悪感」

愛する娘ルーシーが7歳になり、学校に通い始めたことは、サムにとって大きな喜びであったはずですが、同時に二人の関係に微妙な変化をもたらすことになります。

ルーシーは成長し、自分の父親が他の子どもたちの父親とどこか違っていることに気づき始めます。そして、この「違い」が彼女の純粋な心に複雑な感情を生み出すきっかけとなっていくのです。

父親との違いに気づく7歳の葛藤

ルーシーが父親に投げかけた「お父さんは普通のお父さんとなぜ違うの」という問いは、彼女が社会の中で「普通」とされる基準を認識し始めたことの表れ言えるでしょう。

この問いに対し、サムが「こんなお父さんでごめんよ」と悲しく答える場面は、見る者の胸を打ちます。

知的障害のある父親を持つ子どもは、成長の過程で、親子の関係だけでなく、社会との関係性にも向き合わざるを得ないことがあります。

ルーシーの場合、学校で学ぶ知識や、自分が父親よりも物事を理解できることに罪悪感を持つようになるという描写は、観る者の胸に深く刺さるように感じられます。

サムを悲しませたくないルーシーの行動

ルーシーの心の中には、「大好きなお父さんのあんな悲しい顔を二度と見たくない」という強い思いが生まれます。

この思いが、彼女の進む方向を変えようと動き始めます。具体的には、彼女は学校で学ぶことをやめようとしたり、積極的に知識を得ることを避けようとしたりする行動をとるようになります。

これは、自分が賢くなることが、サムの「こんなお父さんでごめんよ」という感情を深めてしまうのではないかという、子ども心による誤った解釈から来ているのかもしれません。

こうしたルーシーの行動に、学校の教師が疑問を持ち、最終的には市の福祉局に連絡がいくことになります。

教師の行動は、ルーシーの将来を案じたものかもしれませんが、その結果、父と娘の生活環境が問題視され、親権を巡る争いへと発展してしまいます。

親権を争う法廷の場では、検事の質問に対し、映画の話やビートルズの話をするサムに対して、「彼は人とまともに会話をすることができない」「彼には子どもを養育していく能力がない」という厳しい審判が下されてしまうのです。

親権を奪われたサムと弁護士リタの絆の変化

親権を奪われたサムが必死に協力を求めた女性弁護士リタを、ミッシェル・ファイファーが実に美しく、可愛らしく、魅力的に演じているのもこの映画の大きな見どころの一つです。

当初、リタは自分の名声のために、無償でサムの弁護を引き受けたようにも見えます。彼女にとって、サムは単なる「依頼人」であり、しかも知的障害を持つ「かわいそうな人」という認識で接していた可能性もあります。

リタの登場と当初の依頼人との関係

奪われた娘との暮らしを取り戻そうと必死にもがくサムに対し、リタは冷静かつ客観的な弁護を進めようとします。

しかし、知的障害というハンディのために法廷で自分の正当性をうまく表現できないサムの姿を見て、彼女の心にも少しずつ変化が生まれ始めました。

親権を取り戻すための努力が報われず、ついに自分の努力ではどうにもできないハンディのために娘との暮らしを奪われてしまったと感じたサム。普段は決して怒りを見せなかったにもかかわらず、リタに向かって怒りをぶつけてしまいます。

「君は幸せだ、毎日息子と一緒にいれる、でも今の僕にルーシーはいない、君に僕のことなどわからない」というサムの悲痛な叫びは、リタの心に衝撃を与えます。

弱さを分かち合い、真の人間関係へ

サムの怒りの言葉を聞いたリタは、「あんただけが苦しいわけじゃないのよ」と応じながら、自分自身の弱さをさらけ出し、ついにはサムの前で泣き崩れてしまいます。

サムはそのリタの変化に気づき、驚き、そして彼女の肩を抱き、必死で慰め始めるのです。リタが自分よりも「弱い」状態になった時、サムは迷うことなく「誰かを支える」という強い行動に出ました。

サムはもう一度、娘との暮らしを取り戻そうと決意し、リタは彼との間に真の人間的な絆を見出し、彼の弁護に全力を尽くすことになります。

映画が描き出す社会へのメッセージ

『アイ・アム・サム』は、知的障害を持つ親と子というテーマを通じて、当時の健常者社会の仕組みや常識が、時としてどれほど残酷になり得るかを問いかけている作品だと考えられます。

サムとルーシーの幸せな日々が、第三者による報告と、それに続く法廷での判断によって奪われてしまうプロセスは、「善意」や「社会の常識」が、個人の幸せを脅かす可能性があることを示しています。

まとめ

映画『アイ・アム・サム』は、知的障害を持つ父サムと娘ルーシーの深い愛情と、親権を巡る社会との葛藤を描いた名作です。

サムの生活を支えるビートルズのオマージュや、隣人・仲間たちとの絆が重要な要素となっています。弁護士リタもまた、サムとの交流を通じて真の人間愛に目覚め、成長を遂げます。

この作品は、障害の有無を超え、愛する力と多様性の受容という普遍的なテーマを私たちに問いかけています。

あとがき

この映画が持つ親子の純粋な愛と、社会の厳しさが深く伝わってきます。単なる感動ドラマではなく、多様性や障害者雇用といったテーマを深く問いかける作品だと改めて感じます。

本記事が、読者の方が改めて『アイ・アム・サム』が問いかけるテーマと向き合うきっかけとなれば幸いです。

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