福祉現場で注意すべきセキュリティリスクその2

支援員
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福祉の現場では、利用者の方々と真摯に向き合う毎日ですが、その裏側で情報セキュリティのリスクが潜んでいることをご存じでしょうか?便利なスマートフォンやパソコンが、ほんの少しの油断で個人情報を外部に漏らしてしまう危険なツールに変わることがあります。この記事では、特に見過ごされがちなソーシャルメディアや写真の取り扱い、データの廃棄といった具体的な場面を取り上げ、福祉現場で働く皆さまが注意すべきセキュリティリスクとその対策を分かりやすく解説します。

福祉現場に潜むソーシャルメディアリスク

今や誰もが利用するソーシャルメディア(SNS)は、便利な情報発信ツールですが、福祉の現場においては細心の注意が必要な媒体です。

何気ない日常の一コマを投稿したつもりが、思わぬ形で個人情報や施設の内部情報が特定されてしまう危険性をはらんでいます。

例えば、職員が善意で行ったイベント報告の投稿に、利用者の顔がはっきりと写り込んでいたり、事業所の名前が入った書類が背景に映っていたりするケースは少なくありません。

また、A型就労継続支援事業所などで作った製品を写真付きで紹介した際に、作業している利用者の姿が特定できる形で写ってしまうことも考えられます。

こうした投稿は、たとえ悪意がなかったとしても、一度インターネット上に公開されれば完全に削除することは困難です。

不特定多数の人々の目に触れることで、利用者やそのご家族を不安にさせてしまうだけでなく、事業所全体の信頼を損なう事態にもなりかねません。

特に、利用者の中には自らの障がいについて公にしていない方も多く、プライバシーへの配慮は最優先で考えるべき重要な課題です。

職員一人ひとりが「この投稿は本当に安全か」と自問自答する習慣をつけ、組織としてSNSの利用ガイドラインを明確に定めることが、リスクを未然に防ぐための第一歩となります。

写真撮影とその共有に潜むリスク

日々の活動記録や広報活動のために、福祉施設内で写真を撮影する機会は多いでしょう。しかし、その一枚の写真が、重大な情報漏えいに繋がる可能性があることを常に意識しなければなりません。

撮影時には、被写体となる利用者本人だけでなく、その背景にも細心の注意を払う必要があります。

例えば、壁に掲示されている週間スケジュール表や、机の上に置かれた個別の支援計画書、利用者の名前が書かれた作品などが意図せず写り込んでしまうケースは後を絶ちません。

これらの情報が写り込んだ写真を、施設のウェブサイトや広報誌に無断で公開してしまえば、それは紛れもない個人情報の漏えいとなります。

特に、スマートフォンで手軽に撮影できるようになった現代では、撮影した写真を安易に職員間のチャットアプリなどで共有してしまうことにも注意が必要です。

もし、職員の誰かのスマートフォンがウイルスに感染したり、紛失してしまったりした場合、そこに保存されていた写真データが外部に流出するリスクも考えられます。

写真を取り扱う際は、必ず利用者本人またはご家族から同意を得ること、撮影時には背景を整理整頓すること、そして撮影したデータの管理方法について組織として明確なルールを定めておきましょう。

そうすることが利用者のかけがえのないプライバシーを守る上で不可欠と言えるでしょう。

画面キャプチャによる情報漏えい

パソコンやスマートフォンの画面を画像として保存できるスクリーンショット(画面キャプチャ)は、業務の引継ぎや情報共有に非常に便利な機能です。しかし、その手軽さゆえに、情報漏えいの温床となりやすいという側面も持っています。

例えば、利用者の支援記録システムや電子カルテの画面をスクリーンショットで撮影し、それをメールやチャットで他の職員に送るという行為は、多くの現場で行われているかもしれません。

しかし、もしその送信先を間違えてしまったり、送信に使用したアカウントが不正アクセスされたりした場合、機密性の高い情報が瞬く間に外部へ流出してしまいます。

また、業務用パソコンの画面に利用者の個人情報を表示させたまま、私用のスマートフォンで撮影し、それを自宅に持ち帰って作業するといった行為も大変危険です。

私用の端末は、職場の端末ほどセキュリティ対策が万全でない場合が多く、ウイルス感染や紛失による情報漏えいのリスクが格段に高まります。

画面キャプチャで漏えいしやすい情報には、利用者の氏名や住所、連絡先はもちろんのこと、病歴や障がいの詳細、家庭環境といった極めてデリケートな情報が含まれています。

業務上どうしても画面共有が必要な場合は、個人情報を隠すなどの加工を施し、安全な通信経路を用いるなど、組織として定められた手順を必ず守るようにしてください。

廃棄する媒体からの情報漏えいを防ぐ

業務で使用したパソコンやハードディスク(HDD)、USBメモリなどの記録媒体を廃棄する際、適切なデータ消去を行わずに捨ててしまうと、深刻な情報漏えいを引き起こす可能性があります。

多くの人が「ゴミ箱を空にする」や「初期化」を行えばデータは消えると考えていますが、これは大きな間違いです。これらの操作は、あくまでもデータの索引情報を消しているだけで、専門的な知識があれば簡単に元のデータを復元できてしまいます。

もし、利用者の個人情報や事業所の機密情報が記録された媒体が、このような不十分な処理のまま外部の人の手に渡ってしまったら、その被害は計り知れません。

これは、パソコンやHDDだけでなく、日頃から使用しているコピー機や複合機も同様です。最近の複合機には、コピーやスキャンした内容を一時的に保存するためのHDDが内蔵されており、ここにも多くの情報が蓄積されています。

リース契約が終了して機器を返却する際や、廃棄する際には、内部のデータを完全に消去する措置が不可欠です。安全にデータを廃棄するためには、以下のような方法を検討し、事業所のルールとして徹底することが重要です。

物理的破壊

最も確実な方法の一つが、記録媒体そのものを物理的に破壊することです。HDDであればドリルで穴を開けたり、専門の機械で破砕したりすることで、データの読み取りを不可能にします。

論理的消去(データ上書き)

データ消去専用のソフトウェアを使用し、記録媒体全体に無意味なデータを何度も上書きすることで、元のデータを復元できない状態にします。一度の上書きだけでなく、複数回繰り返すことで、より安全性を高めることができます。

専門業者への依頼

情報セキュリティを専門とする業者に依頼し、データ消去から廃棄までを委託する方法もあります。作業完了後にはデータ消去証明書を発行してもらえるため、確実な処理の記録を残すことができます。

A型就労継続支援事業所における特有のリスク

A型就労継続支援事業所など、利用者が生産活動に従事する施設では、一般的な福祉施設とは少し異なるセキュリティリスクが存在します。

利用者が行う業務の中には、外部の企業から委託されたデータ入力や書類の電子化、部品の組み立てといった作業が含まれることがあります。

これらの業務では、委託元企業の顧客情報や製品の機密情報など、事業所が普段取り扱うことのない外部の重要な情報に触れる機会が生まれます。

万が一、これらの情報が事業所から漏えいした場合、自施設の利用者だけでなく、委託元の企業にも多大な損害を与え、社会的な信用を失うことになりかねません。

そのため、利用者と職員の双方に対して、情報セキュリティに関する継続的な教育が不可欠となります。

特に、利用者に対しては、障がいの特性に配慮しながら、なぜ情報の取り扱いに注意が必要なのか、具体的な作業の中で気をつけるべき点は何かを、分かりやすい言葉で丁寧に伝える必要があります。

単に「やってはいけない」と禁止するのではなく、情報管理の重要性を理解してもらい、仕事に対する責任感を育むような支援が求められます。

また、作業スペースの物理的なセキュリティ対策(部外者の立ち入り制限や施錠管理など)や、ネットワークのアクセス制限といった技術的な対策を組み合わせ、多層的に情報を保護する体制を構築することが重要です。

まとめ

福祉現場では、SNS投稿や写真撮影、画面キャプチャ、機器の廃棄など、日常的な行為が大きな情報漏えいリスクにつながる可能性があります。

利用者のプライバシーを守るためには、投稿や撮影時の配慮、データ消去の徹底、専門業者への委託といった具体的な対策が不可欠です。

特にA型就労継続支援事業所では外部企業の情報を扱う場面もあるため、職員と利用者への継続的な教育や組織的なルールづくりが信頼を守る鍵となります。

あとがき

この記事を書きながら、福祉の現場で当たり前に行っている行動の中に、これほど多くのセキュリティリスクが潜んでいることを改めて実感しました。

SNSや写真、画面キャプチャ、さらには機器の廃棄に至るまで、一つひとつの行為が利用者の大切なプライバシーや信頼に直結しています。

特にA型就労継続支援事業所では外部情報を扱う機会も多く、適切な教育とルールづくりが欠かせません。安全な環境を整えることは、利用者だけでなく職員自身を守ることにもつながるのだと強く感じました。

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