A型事業所のスタッフのみなさん、利用者さんとのコミュニケーションや、職員間の連携でお悩みはありませんか?本稿では、自分も相手も大切にするコミュニケーションスキル「アサーション」について、A型事業所の職員向けに分かりやすく解説します。アサーションを学び、実践することで、より質の高い支援と働きがいのある職場環境を実現しましょう。
なぜ今、A型事業所の職員にアサーションが求められるのか?
近年、障害者総合支援法の制度変更により、A型事業所には、職員の専門性向上と、より質の高い支援が求められるようになっています。
事業所評価においても、その貢献度が重要な指標となる中で、利用者さん一人ひとりに心から寄り添う支援者の皆さんにとって、よりスムーズなコミュニケーションを取れるようになることは、今、特に大切になっていることと言えるでしょう。
就労移行支援事業所をはじめとする多くの福祉現場で、利用者向けの訓練プログラムとして導入が進んでいる「アサーション・トレーニング」ですが、その効果は利用者の方々への支援に留まりません。
職員自身がアサーションを身につけることは、日々の業務における様々なメリットをもたらすのです。
アサーション・トレーニングとは – 自己尊重と他者尊重のコミュニケーション

アサーションとは、1950年代のアメリカ公民権運動を背景に生まれた、自分の気持ちや意見を、相手を尊重しながら率直に、かつ建設的に伝えるためのコミュニケーションスキルです。
単に自分の主張を通すのではなく、「自己尊重」と「他者尊重」のバランスを重視します。
コミュニケーションの不全は、職場のミスや誤解を生み出し、職員のストレスや心身の不調、さらには二次的な障害による生産性低下を招く可能性も否定できません。
アサーション・トレーニングは、現状のコミュニケーションにおける課題を認識し、より良い関係性を築きたいという前向きな気持ちを引き出す第一歩となります。
自己表現の3つのタイプ
自身のコミュニケーション傾向を知ることは、アサーティブなコミュニケーションへの第一歩です。
- アグレッシブ(攻撃的)タイプ: 自分の意見を一方的に主張し、相手を尊重しない。
- ノン・アサーティブ(非主張的)タイプ: 自分の意見を抑え、相手に合わせすぎる。
- アサーティブ(適切)タイプ: 相手を尊重しつつ、自分の意見も率直に伝える。
アサーション・トレーニングの目標は、アサーティブな自己表現を習得することです。
アサーション・トレーニング、具体的な進め方 を 5つのステップ
より良い人間関係を築く鍵、アサーション・トレーニング。ここでは、その習得に向けた5つのステップを分かりやすく解説します。自己理解から実践まで、段階的にスキルアップを目指しましょう。
- 意義の理解: アサーションの重要性と効果を理解し、学習意欲を高めます。
- 3つのタイプの理解: 自身のコミュニケーション傾向を客観的に認識します。
- 基本的な考え方の理解: 素直な表現、誠実・謙虚な姿勢、対等な関係性、自己責任を理解します。
- 「アイメッセージ」の理解: 自分を主語にして気持ちや意見を伝え、相手を責める「ユーメッセージ」との違いを理解します。
- ロールプレイング: 様々な場面を想定し、学んだスキルを実践的に練習します。
就労支援事業におけるアサーション・トレーニングの活用 – 職員と利用者双方へのメリット

アサーション・トレーニングは、利用者の方々への直接的な訓練プログラムとして、自己表現スキルの向上や社会参加の促進に貢献することはもちろん、A型事業所で働く職員にとっても多くのメリットをもたらします。
- 職員間のコミュニケーション円滑化: 建設的な対話により連携がスムーズになり、質の高いチーム支援が実現します。
- 風通しの良い職場環境の醸成: 意見を言いやすい雰囲気は心理的な安全性を高め、ストレス軽減や定着率向上に繋がります。
- 利用者への指導力向上: 職員自身がアサーションを実践することで、利用者の自己表現を促し、社会生活スキルの向上を支援できます。
【応用編】「DESC法」 – より具体的で効果的なコミュニケーション技法
アサーション・トレーニングで学んだ考え方を、より具体的なコミュニケーションスキルとして実践するための強力なツールが「DESC(デスク)法」です。
これは、感情的にならずに、冷静かつ建設的に自分の意見や要求を相手に伝えるための、具体的で実践的なフレームワークです。
- D:Describe(描写する): 客観的な事実や状況を具体的に描写します。
- E:Explain(説明する): 自分の気持ちや考え、相手への影響を「アイメッセージ」で伝えます。
- S:Specify(提案する): 具体的な解決策や改善策を提案します。
- C:Choose(選択する): 提案を受け入れた場合とそうでない場合の結果を伝えます。
DESC法の活用例:就労支援における進路選択支援
支援員が利用者さんの進路選択を支援する場面で、DESC法を活用したコミュニケーション例を示します。
D:Describe(描写する):主観的な感情や解釈を交えず、客観的な事実や状況を具体的に描写します。
「〇〇さんが、△△の作業手順について、事前に確認することなく作業を進めていたため、最終的な成果物に誤りが生じました」のように、誰が見てもわかる事実を述べることが重要です。
E:Explain(説明する):描写した事実や状況に対して、自分の気持ちや考え、そしてそれが自分にどのような影響を与えているかを、「アイメッセージ」を用いて明確に伝えます。
「私は事前に確認がないまま作業が進められたため、最終的な手直しが発生し、予定よりも多くの時間を費やしてしまい、大変困惑しました。もし事前に確認があれば、このような事態は避けられたのではないかと考えています。」
のように、自分の感情と、その理由を明確に伝えることで、相手に理解を促します。
S:Specify(提案する):相手と自分の主張を踏まえ、具体的な解決策や、今後同様の問題を防ぐための提案を行います。
「今後、新しい作業手順に取り組む際には、必ず事前に担当の職員に確認する時間を設けていただくことは可能でしょうか?また、もし手順について不明な点があれば、遠慮なく質問できるような仕組みがあれば安心して作業に取り組めると思います」
のように、具体的な行動を提案することで、建設的な話し合いに繋げます。複数の選択肢を示すことも有効です。
C:Choose(選択する):提示した提案を受け入れた場合と、受け入れなかった場合に、どのような結果が予想されるかを具体的に伝えます。ただし、脅迫的な言い方にならないよう、冷静かつ客観的に伝えることが重要です。
「もし事前に確認する手順を導入していただけるのであれば、今後同様のミスを防ぎ、より効率的に業務を進めることができると期待できます。しかし、もしこの提案が難しいようでしたら、他の方法についても一緒に検討したいと考えています」
のように、提案を受け入れることのメリットと、受け入れられない場合の代替案を示すことで相手に選択肢を与え、主体的な行動を促します。
まとめ

アサーションは、自己と他者の尊重に基づいた良好な人間関係を築くための重要な鍵です。特にA型事業所では、職員のアサーティブな姿勢が、利用者の安心と職員間の連携を促し、質の高い支援と働きやすい環境につながります。
「アイメッセージ」や「DESC法」等のスキルを習得し実践することで、コミュニケーションは向上するでしょう。
あとがき
私はA型事業所の利用者として在宅勤務で働いています。テレワークになると、画面越しになるので距離感がつかめなくて上手く意思疎通が伝わりにくい事もよくあるわけです。
あるとき職員さんと意見の相違があった際に、不安になりそうになりました。しかし、すぐにワンクッション置いた言葉で伝えてくださり、そのおかげで落ち着いて話を受け入れる事ができたのです。
異なる意見を主張する際に、クッション言葉で「個人的には○○だと思います」と優しく話してくれていて、今思えば、あれは「アイメッセージ」だったんだなぁ〜と気づく事ができました。
利用者は様々な障害や難病により、一般企業での就労が困難な方がほとんどです。コミュニケーションに慣れていなかったりする場面も多々あります。
しかし、利用者への気遣いや心配りをしてくださる職員さん達がいるおかげで、私たち利用者は救われる場面が多いです。とても感謝しています。今回の記事の内容が職員さんの現場でお役に立てれば幸いです。
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