福祉職員及び利用者が気をつけるべきセキュリティ脅威・攻撃手法6

インターネットの普及は、福祉の現場においても情報共有や業務の効率化に大きく貢献しています。しかし、その便利さの裏側には、私たちの個人情報や事業所の大切なデータを狙う、巧妙で多様なセキュリティ上の脅威が潜んでいます。この記事では、気をつけるべきサイバー攻撃の中から、少し専門的ですが非常に重要な3つの手法に絞って、その仕組みと対策をより深く、分かりやすく解説していきます。自分と仲間を守るための、一歩進んだ知識を身につけましょう。

DNSキャッシュポイズニング:案内係を騙して偽サイトへ誘導する

皆さんが普段、ウェブサイトを見るときには「DNS(ドメイン・ネーム・システム)」という仕組みが、目には見えないところで働いています。

これは、私たちが入力する「〇〇.com」のようなウェブサイトのアドレス(ドメイン名)を、コンピュータが理解できる数字の住所(IPアドレス)に変換してくれる、インターネット上の非常に重要な案内係です。

この案内係は、一度案内した場所を効率化のために自身のコンピュータ内に一時的に記憶(キャッシュ)しています。DNSキャッシュポイズニングとは、この案内係が記憶している地図情報を、悪意のある第三者が不正に書き換えてしまう攻撃のことです。

「ポイズニング」は「毒を入れる」という意味であり、まさに案内係の記憶に毒を盛って、行き先を偽ってしまう行為なのです。

この攻撃の厄介な点は、利用者が正しいURLをブラウザに入力したり、いつも使っているブックマークからアクセスしたりした場合でも、偽サイトに誘導されてしまう可能性があることです。

利用者は本物のサイトにアクセスしていると信じ込んでいるため、何の疑いもなくIDやパスワード、クレジットカード情報などを入力してしまいます。

例えば、利用者さんの個人情報を管理しているクラウドサービスや、事業所で利用している行政手続きのサイトが標的になった場合、そこで入力された情報はすべて攻撃者の手に渡ってしまいます。

これは個人情報の大量漏洩や、事業所の資金が不正に引き出されるといった、深刻な被害に直結する非常に危険な攻撃と言えます。

偽サイトは本物と見分けがつかないほど精巧に作られていることが多いですが、注意深く見ると不審な点が見つかることもあります。

例えば、企業のロゴが少し古かったり、日本語の文章に不自然な部分があったり、URLの文字列が「https://www.google.com/search?q=google.com」であるべきところが「http://www.google.com/search?q=go0gle.com」のように微妙に異なっていたりします。

対策の基本は、ウェブサイトが安全な通信を行っているかを確認する習慣です。アドレスバーのURLが「https://」で始まり、鍵マークが表示されているかを確認しましょう。

また、事業所としてできる対策には、信頼性の高いDNSサーバーを利用することや、公共のフリーWi-Fiなど、セキュリティが不確かなネットワーク環境では重要な情報の入力やログインを避けるといった判断も含まれます。

職員一人ひとりが「いつもと違う」という感覚を大切にすることも、被害を未然に防ぐ上で重要です。

サイドチャネル攻撃:PCから漏れる微かな情報で秘密を盗む

サイドチャネル攻撃は、数あるサイバー攻撃の中でも、非常に特殊で物理的なアプローチを用いる手法です。

「サイドチャネル」とは、正規のデータ通信ルートではなく、コンピュータが動作する際に意図せず外部に漏れ出てしまう、いわば脇道から漏れる情報を利用して、内部の秘密情報を盗み出します。

具体的には、CPUが複雑な計算をするときに消費する電力の微妙な変化(電力解析攻撃)、処理にかかる時間のわずかな違い(タイミング攻撃)、本体から発せられる微弱な電磁波(電磁波解析攻撃)など。

さらにはキーボードを叩く音(音響解析攻撃)など、通常は誰も気にしないような物理現象を詳細に分析対象とします。

例えば、パスワードの認証処理において、入力された文字が1文字でも間違っているとすぐに処理が終わるのに対し、最後の文字まで合っている場合は処理に少し時間がかかる、といったプログラムがあったとします。

攻撃者はこの数ミリ秒にも満たない時間の差を何千回、何万回と計測することで、パスワードを1文字ずつ特定していくことが可能です。福祉事業所のように、人の出入りがある環境では特に注意が必要となります。

悪意を持った第三者が訪問者を装って事業所内に入り込み、職員が重要な支援記録やパスワードを入力しているPCの近くで、スマートフォンなどの機器を使って密かに動作音や電磁波を記録しようとする可能性も考えられます。

PCに直接触れることなく、遠隔から情報を盗み取れてしまうのが、この攻撃の最も恐ろしい側面です。

この攻撃は高度な専門知識と特殊な機材を要するため、頻繁に発生するものではありませんが、重要な個人情報を扱う福祉の現場ではリスクとして認識しておくべきです。

対策はまず、物理的なセキュリティの強化から始まります。部外者が重要な情報を扱うPCに安易に近づけないよう、入退室管理を徹底することが基本です。

PCの設置場所も重要で、壁を背にして設置し、通路や窓際など、不特定多数の人の目に触れる場所は避けましょう。

PCの画面にプライバシーフィルター(覗き見防止フィルム)を貼ることは、肩越しに画面を盗み見られるショルダーハッキング攻撃に対しても有効です。

アナログな対策に見えますが、物理的な情報漏洩を防ぐ上では非常に効果的なのです。重要な情報を扱う際は、周囲の環境に気を配る意識が求められます。

クロスサイトリクエストフォージェリ:ログイン状態を悪用し遠隔操作する

クロスサイトリクエストフォージェリは、利用者が特定のウェブサービスにログインしている状態を悪用する、非常に巧妙な攻撃です。頭文字をとって「CSRF(シーサーフ)」とも呼ばれます。

「リクエスト(要求)」を「フォージェリ(偽造)」するという名前の通り、攻撃者は利用者が意図しない要求(操作)を、まるで本人が自発的に操作したかのように偽装して、サービス側に送りつけます。

この攻撃は、利用者がサービス側から「信頼されている状態(ログイン状態)」にあることを逆手に取るのが特徴です。

攻撃者は、まず罠を仕掛けたウェブページや、悪意のあるリンクを記載したメール、SNSの投稿などを用意し、標的となる利用者がそれをクリックするのを待ちます。

もし利用者が、事業所のブログ管理画面やネットショップ、SNSなどにログインしたままの状態で、この罠のリンクを不用意にクリックしてしまうと、ブラウザは自動的に、偽装された要求をログイン中のサービスへ送信してしまいます。

ログイン状態にあるため、サービス側はそれを本人からの正規の操作だと誤認し、そのまま処理を実行してしまうのです。結果として、事業所のブログに全く関係のない宣伝や誹謗中傷が書き込まれます。

購入用のサイトで高額な商品を勝手に注文させられたり、利用者さんとの連絡用アカウントで不適切なメッセージが送信されたりといった、事業所の信用を根底から揺るがすような被害が発生する可能性があります。

この攻撃に対する最もシンプルで効果的な個人レベルの対策は、ウェブサービスの利用が終わったら、その都度必ずログアウトする習慣を徹底することです。これにより、万が一罠のリンクを踏んでしまっても、ログイン状態ではないため攻撃は失敗します。

また、「怪しいリンクは絶対にクリックしない」というインターネット利用の鉄則を改めて徹底することも重要です。事業所としては、職員に対して定期的なセキュリティ教育を行い、CSRFのような具体的な攻撃手法の存在を周知することが不可欠です。

まとめ

この記事では、福祉現場で注意すべき高度なセキュリティ脅威として「DNSキャッシュポイズニング」「サイドチャネル攻撃」「クロスサイトリクエストフォージェリ(CSRF)」を解説しました。

いずれも利用者が気づかないうちに個人情報や認証情報を盗まれる危険があり、事業所や職員の信用を大きく損なう恐れがあります。対策としては、通信の安全確認、物理的なセキュリティ強化、ログアウト習慣や怪しいリンクを避ける意識が重要です。

あとがき

この記事を書きながら、福祉の現場に潜むセキュリティ脅威は一見遠い世界の話に思えても、実は私たちの日常に密接していることを改めて実感しました。

利用者さんや職員の大切な情報を守るためには、特別な知識や機材だけでなく、一人ひとりの小さな心がけが何よりも重要だと感じます。

例えば、ログアウトの徹底や怪しいリンクを避ける慎重さ、物理的なセキュリティ意識といった基本の積み重ねが、事業所全体の信頼につながると感じました。

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