「いつか自分一人で生活したい」と考えている精神障がいを抱える方は多いでしょう。 一人暮らしは自由である反面、体調管理や金銭管理など、様々な課題が伴います。しかし、日本には、働く障がい者を力強くサポートするための多様な福祉サービスや公的支援が整備されています。 本記事では、精神障がい者がA型就労を続けながら、安心して一人暮らしを実現・継続するための具体的な方法をご紹介します。
A型就労の収入で一人暮らしをするための経済的な現実
就労継続支援A型事業所(A型就労)で働くことは、自立した生活を目指す上での大きな一歩です。しかし、A型事業所の平均賃金は、厚生労働省の調査によると、令和3年度の月額平均が約81,654万円程度です。
この収入だけで家賃や生活費をすべて賄い、医療費などを支払いながら一人暮らしをすることは、経済的に厳しい現実があります。
都市部での家賃や高騰する光熱費などを考慮すると、安定した一人暮らしには、最低でも月額15万円程度の収入が必要になることが多いです。A型就労の収入に加えて、公的な経済支援を併用することが、自立生活の現実的なカギとなります。
収入不足を補う公的支援の併用
一人暮らしの経済的な基盤を固めるために、以下の公的支援制度を積極的に活用しましょう。
- 障害年金:障害の状態に応じて支給される年金です。A型就労では、働きながらでも受給可能であり、毎月の安定した収入源となります。
- 生活保護制度:世帯収入が国が定める最低生活費を下回る場合に、その不足分を補う制度です。A型就労の賃金や障害年金と併用が可能です。
A型就労の賃金と障害年金を合わせた金額を目安に、家賃を手取り収入の3分の1以下に抑えることが、金銭管理の鉄則です。公的支援の申請や適切な併用については、お住まいの市町村の福祉窓口や相談支援センターで相談し、専門的な助言を受けることが重要です。
経済的な土台をしっかりと築くことが、精神的な安心に直結します。
一人暮らしを支える生活支援サービス【自宅で受ける支援】
A型就労で仕事をしていても、精神障がいの特性から、服薬管理や家事、体調の波による生活の乱れは一人暮らしの大きな課題となりがちです。障害者総合支援法では、地域での単身生活を継続できるよう、自宅を訪問して支援を行うサービスが用意されています。
「自立生活援助」と「居宅介護(家事援助)」の活用
精神障がい者が一人暮らしを円滑に進めるために有効なサービスは以下の通りです。
- 自立生活援助:施設やグループホームなどから地域で一人暮らしを始めた方を対象に、一定期間(原則1年間)、定期的な巡回訪問や随時の対応で支援を行うサービスです。
- 支援内容:
- 居宅介護(家事援助):ホームヘルパーが自宅を訪問し、家事援助(掃除、洗濯、調理など)を行うサービスです。精神障がいが原因で、家事の遂行に困難がある場合に利用できます。
- 通院等介助:居宅介護の一環として、通院時の移動や必要な手続きを支援してもらえます。定期的な通院が必要な精神障がい者にとって、体調の波がある際に非常に役立ちます。
自立生活援助は「相談・助言」によるサポートが中心となります。主に生活上の困りごと(金銭管理、対人関係、役所手続きなど)の把握と解決に向けた助言がメインです。「自分で解決できる力」を養うことを目的としています。
それに対し、居宅介護の家事援助は「実際の家事」を代行・支援する点が大きく異なります。
自分の苦手な部分をこれらのサービスで補うことで、A型事業所での仕事に集中できるようになり、心身の負担軽減に繋がります。
サービス利用には、市町村への申請とサービス等利用計画の作成が必要です。詳しくは特定相談支援事業所に相談しましょう。
一人暮らしに向けた準備と訓練サービス
一人暮らしは、アパートを借りるという物理的な準備だけでなく、生活スキルと体調安定という精神的な準備も重要です。これまで親元や施設で生活していた方がいきなり単身生活を始めるのは、大きなストレスや生活の破綻に繋がるリスクがあります。
A型就労を継続できるだけの生活基盤を整えるための訓練サービスの活用が有効です。
自立に向けた「生活訓練」と「グループホーム」の活用
一人暮らしに向けた準備段階で活用したいサービスは以下の通りです。
- 自立訓練(生活訓練):地域での自立した生活を営むために、一定期間(原則2年間)にわたり、食事・清潔・金銭管理など日常生活を送るための能力の向上を目的とした訓練や支援を行います。
- グループホーム(共同生活援助):夜間や休日、共同生活住居で相談や生活援助を受けられるサービスです。一人暮らしに近い環境で、生活リズムや金銭管理を練習できます。
- サテライト型住居:グループホームの近くのアパートで一人暮らしをしながら、世話人の定期的な訪問支援が受けられる、より自立に近い形態です。(利用期間は原則2年間)
厚生労働省の資料にもあるように、グループホームの利用は地域生活への移行において重要な役割を果たします。
~障害者支援施設やグループホーム、精神科病院等から地域での一人暮らしに移行した方に、定期的な居宅訪問や随時の対応により必要な助言や相談、支援を行います。~
A型就労をしながら、サテライト型のようなサポート付きの一人暮らしを体験することで、精神的な負担を減らしつつ、単身生活に必要なスキルを習得できます。
安心して暮らすための住居と金銭管理の工夫
A型就労の給与と公的支援を合わせて一人暮らしを実現するためには、家賃設定と金銭管理が最大のポイントとなります。特に精神障がいを抱える場合、衝動買いや支払いの遅延は生活の不安定化に直結するため、仕組みで管理することが不可欠です。
金銭管理のサポートと緊急時の連絡体制
単身生活を安定させるための具体的な工夫は以下の通りです。
- 家賃の目安設定:前述の通り、家賃は手取り収入(給与+年金等)の3分の1以下に抑えることを目指しましょう。家賃補助が受けられる生活保護や自治体の支援についても確認することが大切です。
- 日常的な金銭管理の支援:日常生活自立支援事業(市区町村の社会福祉協議会が窓口)を活用し、公共料金の支払いや年金・手当の受取確認などの金銭管理をサポートしてもらうことが可能です。
- 緊急時の連絡体制の確保:地域で単身生活を送る方が、緊急時に相談や支援を受けられるよう、常時の連絡体制を確保する地域定着支援というサービスがあります。
- 地域定着支援の役割:施設退所や家族との同居から一人暮らしに移行した方など、地域生活が不安定な方に対し、緊急時の訪問や相談に対応することで、安心して暮らし続けるための支援を行います。
体調不良や孤独感への対処も、精神障がい者の単身生活では重要です。A型事業所の支援員や相談支援専門員と定期的に連絡を取り、地域のコミュニティ活動などに参加することで、孤立を防ぐ対策を講じましょう。
一人暮らしの継続を支える相談窓口とチーム支援
一人暮らしは「孤立した生活」を意味しません。精神障がい者が地域で自立するためには、多職種による継続的なサポート、つまり「チーム支援」が不可欠です。
困りごとや体調の変化が生じた際、すぐに頼れる相談窓口を明確にしておくことが、生活の継続に繋がります。A型就労の支援員も、このチームの一員として重要な役割を担います。
A型事業所の支援員との連携
あなたの自立生活を支える主な相談窓口とチームメンバーは以下の通りです。
- 特定相談支援事業所:サービス利用計画を作成し、福祉サービス全般の利用を調整します。一人暮らしで困ったことがあれば、まずここに相談し、必要な支援を見直してもらいましょう。
- 基幹相談支援センター:地域の障がい者支援の中心的な役割を担う窓口です。どこに相談していいか分からない場合や、複雑な問題が生じた場合に総合的な相談が可能です。
- A型事業所の支援員:サービス管理責任者や職業指導員が、あなたの就労状況や体調を把握しています。生活と仕事は密接に関わっているため、仕事の悩みだけでなく、生活の不安も共有し、連携してもらいましょう。
「働くこと」と「暮らすこと」は車の両輪です。A型事業所の支援員は、あなたの生活リズムや体調の波を理解した上で、より安定した就労ができるよう、サービス利用計画の変更や、他の支援機関との連絡調整を行ってくれます。
一人で頑張りすぎず、支援者や福祉サービスを積極的に活用して、安心できる生活環境を整えることが、精神的な安定と就労の継続に繋がります。チームの力を借りて、自立した一人暮らしを成功させましょう。
まとめ
A型就労をしながら一人暮らしをする夢は、適切な福祉サービスを活用することで十分に実現可能です。大切なのは、A型就労の収入と障害年金などの公的支援を必ず併用し、経済的な土台を築くことです。
一人で抱え込まず、A型事業所の支援員を含むチームの力を借りることで、あなたの自立した生活は確実に安定し、働く喜びにつながるでしょう。
あとがき
A型就労を続けながら一人暮らしを目指すことは、決して一人で乗り越える課題ではありません。日本には経済面や生活面であなたを支える公的サービスが豊富に用意されています。
大切なのは支援を求める勇気と、あなたに合ったサービスを選ぶことです。ぜひ、これらの情報を活用し、安心できるチーム支援と共に、充実した自立生活という夢を実現させてください。


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